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三河の式内社①「猿投神社」青銅の神の聖地への尾張氏の進出

東海の式内社シリーズ1.
「猿投神社」青銅の神の聖地への尾張氏の進出

三河国三宮としての 猿投神社(愛知県豊田市猿投町大城5)を訪れた。式内社としての名称は 三河国賀茂郡鎮座 狭投神社である。
祭神はヤマトタケルノミコトの双子の兄、大碓命
祭神は 大碓命。『古事記』や『日本書紀』ではヤマトタケルノミコトの双子の兄として扱われている。しかし 三野国泳宮と「まろが山ぞ」言挙げする八坂入彦皇子の秘密<後編>に記した通り、大碓命は、ヤマトタケルノミコト誕生以前の景行四年に美濃へ遣わされている。これが景行四年問題であり、もうひとつの疑惑が三十六年後の話。景行帝が蝦夷平定の適任を問うと、西征を終えたヤマトタケルノミコトは大碓命に任せることを進上。大碓命が逃隠したので帝は本人を召還して責め、美濃国に封じたとある。
記事は、景行四十年なので四年の求婚譚から三十六年も経ての設定。景行四年生まれの小碓命は既に三十六歳。大碓命は景行四年の美濃國行幸の際に美濃國造 神骨命(八瓜入日子王)の姉妹を娶り、復命せずとあるので、美濃国にそのまま姉妹と暮らして纏向日代宮には戻って来なかったにもかかわらず、景行四十年に「美濃国に封じた」ことになっており、矛盾に満ちた設定になっている。
まだまだ大碓命についての疑問はあるけれども、今回は疑問の追及を目的とはしない。
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猿投神社総門 2023年3月4日(土)参拝 三河国三宮であるにもかかわらず、参拝客は多かった。

サナゲは、サナギ(鐸)の転音化
神社へ話を戻そう。この猿投神社は古代の鉄と神社を書くために豊田市の 大物主命と三穗津姫命を祀る式内 兵主神社 を訪れ、その帰路に時間が少しあったので寄ってみた神社で、「大碓命を祭神とする式内社」程度の認識はあったけれども、それ以上の下調べもしていなかった。
けれども、社名の猿投神社から サナギ➡サナゲ なのではないか程度のアタリは付けていた。つまり、サナゲは語源がサナギで、その転音化ではないかと考えた。また、サナギとは「鐸」を指す。銅鐸でも鉄鐸でも「サナギ(蛹)」には変わりはない。
engishiki.org は、「豊田市の北端にそびえる三河の名峯猿投山の麓に鎮座する」と猿投神社の位置を説いている。三河の名峯 猿投山の形状について「形状小鐸に似たり」との表現がある。猿投山が小鐸に似ているからサナギ➡サナゲなのか、猿投山の麓に鎮座しているから猿投神社なのかとか考えながら、門前をスマホで撮影した。

門前の横断歩道を渡ると小さな、枯れたような川が流れている。グーグルマップで調べると「籠川 かごがわ 」との名称になっている。「矢作川水系の一級河川」と Wikipedia が教えてくれる。「これだ!」と思った。
この河川が「一級河川」とはとても信じ難いが、籠川の名で猿投山が小鐸のような形状だから猿投と名付けられたのではないことがわかった。籠=kago は、畑井弘著『天皇と鍛冶王の伝承』で「銅」を示すとしている。kago = kag であり、香語、香具、鹿児、籠、どの表記にしても同じ意味。物部氏の始祖、饒速日命の児に 天香山命 あまのかごやまのみこと がいる。天香語山命、天香語山神、天香吾山命と表記されるが、鋳銅の神 だろうとされている。彦火明命を祀る 海部氏奉斎の籠神社は、「このじんじゃ」と訓ませているが、丹後の歴史からみて、その意は「かごじんじゃ」であり、鋳銅の神としての彦火明命を祀っていると思える。
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猿投神社の前を流れる籠川 2023年3月4日(土)撮影

猿投山とサナゲの語義
engishiki.org が記す『全国神社祭祀祭礼総合調査』では、「猿投山とサナゲの語義」として以下のように記している。
(1)縁起書にある「猿を海に投げた」より起こった。
(2)山容が「鐸」に似ているから。
(3)「鐸」を木の枝につけて祭祀を行った。
(4)「大碓命」薨去を悲しみ、真歎山が猿投山となった。
・「猿を海に投げた」説
genbu.net では、「景行天皇は猿を愛し、王座にはべらしていたが、 天皇が伊勢国へ行幸の際、猿が不吉なことを行ったので、 天皇は怒り、海へ投げ捨てたとある。 その猿が、後の日本武尊の東征の折、壮士となって従ったといい、 そのために、その猿の籠もった山を猿投山というとある。」としている。
・「山容が「鐸」に似ている」説
・「鐸を木の枝につけて祭祀を行った」説
・「真歎山 まなげきやま が猿投山に転化した」説
宮内庁では大碓命の墓を猿投山山中、猿投神社西宮の後方の「円墳」を治定している。大碓命は、猿投山に登る途中で蛇毒にあたり、四十二歳で亡くなったと言い伝えがある。また、猿投神社西宮の祭神も大碓命で、仲哀帝の元年に勅願で現在地に創祀されたとされる一方、「近世までは異なる神が祀られていた」との説もある。

『全国神社祭祀祭礼総合調査』では「諸説があるが断定はし難い」と結んでいるが、それはそうだろうと納得する。
上記の「近世まで異なる神が祀られていた説」については、猿田彦命、吉備武彦、気入彦命、佐伯命、頬那芸神、大伴武日命と genbu.net にみえる。(頬那芸神 つらなぎのかみ とは、伊耶那岐、伊耶那美二神の神生み條で、水戸の神、速秋津日子神、速秋津比売神が河と海を持ち別けて誕生した八神(沫那芸神、沫那美神、頬那芸神、頬那美神、天之水分神、国之水分神、天之久比奢母智神、国之久比奢母智神)の第三。)
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グーグルマップが示す大碓命の墓の位置。Twitter大碓命の墓の画像を確認したが、実際のところ、ビミョーと思う。

サナゲの地は古代製鉄の地?
サナゲの語義として『古代地名語源辞典』では、美称「サ(狭)」+「ナギ(薙ぐ=崩れた崖)」としている。
那紀 なぎ 『和名抄』山城国久世郡、備前国上道郡の郷名 とし、「薙ぐ なぐ 」が語源で、本来は「崩崖」を指す。「崖」の地名用語はしばしば焼畑用語となるが、これは山崩れの跡の緩傾斜地は地味も肥えて焼畑適地だからという。←『古代地名語源辞典』の、この記述はよく理解できない。焼畑云々はわかるが、それがなぜ山城国久世郡、備前国上道郡の郷名となるのか。
①山城国久世郡那紀郷
『山城志』『地名辞書』『宇治市史』は、現在の宇治市伊勢田町と比定。宇治市伊勢田町には「奈木」の地名が残る。奈木の集落から直線で2キロ地点の、宇治市広野町寺山の坊主山古墳群からは太刀、鉄矛等の鉄製品が出土している。(久世郡の隣は綴喜郡であり、日子坐王一族:日下部氏の拠点。)
②備前国上道郡那紀郷
吉井川右岸の岡山市東区吉井、同一日市、同西祖を中心にした一帯と推測されている。岡山市東区吉井の地から3キロ西の 浦間茶臼山古墳(岡山市東区浦間)からは鉄鏃、鉄刀、鉄剣等、鉄製武具が出土している。また、吉井の吉井川対岸、岡山県瀬戸内市長船町長船には「備前長船刀剣博物館」があり、古代の上道郡那紀郷では製鉄が行われていたと断定してもよいだろう。(上道郡には日下部郷(奈良時代では草ケ部郷)あり、隣り合っている。)
また、岡山県内には上道郡ではないが、県北東部の鳥取県境付近に「奈義町」あり、県境を越えると鳥取県八頭郡八頭町であり、八頭の地には日下部神社あり。)
山城国、備前国の那紀郷とも古代製鉄の地だった と思われる。つまり「薙ぐ」の語義 としての「崖」は古代製鉄における「鉄穴流し」の「崖」を連想させる「鉄穴流し」とは、砂鉄の採集方法 であり、岩石や土に混じった砂鉄を川や水路の流れの破砕力を利用して土砂と分離させ、比重差によって砂鉄のみを取り出す手法。採り出された砂鉄は、主にたたら製鉄の製鉄原料に用いられていた。「薙ぐ」の語義の「崩れた崖」には「鉄穴流し」の崖を示す可能性もあるのではないだろうか
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猿投神社四方殿 2023年3月4日(土)参拝

地名から猿投の地で古代製鉄が行われていたのではないかの疑問に対し、engishiki.org では、よい回答を示してくれていた。
猿投山、狭投神社とは、弥生後期から古墳時代初期にかけて出てくる三遠式銅鐸生産の文化と密接な関係をもった地で、それゆえに命名された山であり、青銅の神を祀る聖所の一つではなかったのか。そこへ尾張氏及びその系累の金属技術集団や須恵器技術集団が進出定着し、サナギの地名のみが残ったと考えられる。従って、サナギ神社の祭神も青銅の神から、ヤマトタケル伝説に因んだ大碓命や景行天皇に変わり、大和朝廷の権威の証しとして、式内社に列せられたと思われる。
青銅の神を祀る地、つまり出雲系(地祇)の聖なる地に、尾張氏率いる金属技術集団や須恵器技術集団が進出し、定着した。彼らは(露天たたらで)猿投の地で産鉄、製鉄した。弥生期からの「サナギ」の地名は進出した尾張氏らにも継承された。猿投神社の祭神は近世まで異なった神(猿田彦命、吉備武彦気入彦命佐伯命、頬那芸神、大伴武日命のいずれかの可能性)だったとの伝承あり、ヤマトタケル伝説の従者や宮簀媛が生んだ児らが名を連ねているところを見ると、尾張氏の影響を否定することはできない だろうと思う。

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by 248jp | 2023-03-21 11:00 | 大碓命 | Comments(0)

愛知県名古屋市在住。  日子坐王(彦坐命)一族の「謎」が一番の興味ですが、その他にも「白鳥伝説」「古代鉄」「出雲」「勘注系図(の否定)」「母系制」「海人族」等をテーマにして取り組んでいます。(ランダム投稿)


by 尾張大海媛
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